日本全国に5,000名以上が活躍している地域おこし協力隊。ここ伊豆の国市にも、現在3名の地域おこし協力隊が伊豆長岡の活性のために日々奮闘しています。移住し、地域と深く関わる立場として、ヨソの視点、ウチの視点の両方から、伊豆長岡の魅力や課題についてお話しいただきました。

小山 和志さん
神奈川県川崎市出身。20代に2年半世界中を旅する。帰国後は仕事にも恵まれて充実した生活を送っていたが、自身の経験からゲストハウスや民泊運営をしたい気持ちが強くなっていく頃、地域おこし協力隊制度と出会う。現在は伊豆の国市内の築50年中古戸建を購入し、DIYセルフリノベーションしながら民泊施設を準備中。2019年3月に着任。
平尾 潤さん
伊豆の下田出身で大学進学とともに上京。年齢を重ねていくごとに改めて伊豆の魅力を実感するが、一方で後継者不足や財政難でなじみのある施設がなくなっていく姿も目の当たりにする。プレイヤーとして地域の力になりたいと思い、地域おこし協力隊に応募。大河ドラマに関連した観光商材開発をミッションとして活動中。2020年11月に着任。
林 俊輔さん
広告制作の仕事に携わっており、愛知県で地域活性化の取り組み(特産品PR)をしていた。その経験踏まえ、より深く地域に入り込み、PR領域を軸とした取り組みを学びたいと思い、地域おこし協力隊へ。現在はFMいずのくに発行媒体であるクラブいずのくにマガジンの制作編集がメイン業務で、一部ラジオパーソナリティもしている。只今、自分の強みを活かした広告・PR領域で事業展開できないか模索中。 2020年7月に着任。

異なるバックグラウンドとスキルを持ったメンバーで、伊豆長岡を盛り上げる

ーーまず、地域おこし協力隊で担当されている業務を教えてください。

平尾さん:観光協会に所属し、2022年に放送される大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に関連した観光商材の造成を中心に活動しています。現在、歴史や文化財の観光情報は、観光協会や地元の方が運営されているブログにまとめられてはいるのですが、特化したサイトは存在していません。そのため、前職で培ったWebサイト制作の経験を活かして、伊豆の国市内の神社仏閣や歴史の深い文化財の情報をまとめたサイトを制作しています。

また、東京オリンピックの自転車競技の会場が伊豆長岡から近いこともあって、アシスト機能が付いた自転車「e-Bike」で市内に点在する史跡を結ぶ周遊プログラムもあわせて計画中です。

小山さん:平尾さんと同じく観光協会に所属しています。平尾さんは歴史にフォーカスした観光商材がメインですが、僕は観光につながる幅広い範囲から商材をつくることがミッションとなります。その他、人手が不足している協会主催のイベントや作業のお手伝い、観光関連のミーティングに参加しています。

林さん:伊豆長岡のコミュニティFM局「FMいずのくに」が発行する紙媒体「クラブいずのくにマガジン」の企画・編集業務を中心に、FMラジオの企画・パーソナリティを担当しています。

ーーさまざまな地域があるなかで、なぜ伊豆長岡を移住先に決めたのでしょう?

平尾さん:地元の下田に帰省するたびに、幼少期に通っていた施設や商店街の店舗が閉鎖し、街に元気がなくなる様子を目のあたりにしていました。年々、伊豆への想いや魅力が募っていき、将来は伊豆で働きたいと考えていました。

そんな中で、新型コロナの感染が拡大し、改めて今後の過ごし方や生き方について考えるようになりました。そのことを地元の友人に相談したら、「協力隊制度があるよ」と教えてもらいました。調べてみると、ちょうど良いタイミングで伊豆の国市が地域おこし協力隊を募集していたんですね。

伊豆長岡は都内へのアクセスも良く、生活環境が整っているイメージが幼少期からありました。さらに、伊豆の玄関口にあたる立地でもあるので、伊豆の国市が観光客を呼び込むことで、伊豆全体に誘客ができるのではと考え、伊豆の国市の協力隊へ応募しました。

小山さん:前職の広告営業から、もう少しキャリアアップしたく、次のステップとしてPRの仕事に興味を持っていました。PRの求人を探していると、土佐犬をブランディングし、全国、世界へPRする求人に目が止まりました。これはなんだろうと詳しく調べてみたら、まさにその求人が地域おこし協力隊の募集でした。

広告営業の仕事はとても楽しくて、もっと働きたいと考えていました。しかし、かねてから抱いていたゲストハウスの運営をしたいという目標や、地域おこし協力隊になると、3年間という決められた期間ですが自己実現を達成できる様々なサポートを地方で受けられることに魅力を感じ、移住してゲストハウスをやってみたいと思うようになりました。ほかにも魅力的な地域はありましたが、川崎市から1時間ほどで行けること、伊豆長岡温泉という観光地で、観光を学べる業務に携われるという2点が決め手でした。

林さん:小山さんと同じく、実家がある浜松市から近いことや、静岡が好きであること、メディアを活用した地域プロモーションという業務内容に魅力を感じたことが、決め手となりました。

協力隊制度については、以前参加した地域活性化に取り組む人材を育てる「ふるさとプロデューサー育成支援事業」で、地域おこし協力隊と関わる機会があり、その存在を知っていました。前職では、愛知県の某市の毛織物をプロモーションする仕事をしていましたが、現場との接点は少なく、もっと地域と深く関わって仕事をしたいという想いが強くなりました。ちょうどそのタイミングで、伊豆長岡が地域おこし協力隊の募集を出していました。一部、ラジオのパーソナリティ業務がありましたが、メインは「クラブいずのくにマガジン」という紙面の企画・編集業務だったので、勉強したいという気持ちから参加しました。

人があたたかい。自然も豊かで住みやすい街、伊豆長岡

ーー移住する前と後で、伊豆長岡温泉に対する印象は変わりましたか?

平尾さん:自然も多く、とても住みやすい場所だと思います。観光で来られる方も、自然の多い非日常な部分に価値を求めているように感じます。観光資源については少し印象が変わった部分があります。伊豆長岡は、源頼朝や北条政子のゆかりの地と認識していましたが、実際にそれを一目で実感できる建築物や文化財が残っていないケースもあります。そこにはギャップを感じています。

小山さん:住んでみると静かで良いですね。田舎というと、閉鎖的でよそものは受け付けないといったイメージでしたが、知り合った方は皆さん親切で自分のことを気にかけてくれてありがたいです。東京の仕事も楽しかったですが、日々の仕事や数字に追われて自分の人生が埋もれている感じがありました。地方では行動ひとつでみんなが主役になれる気がします。

林さん:実は、移住してからも、そこまで印象は変わらないですね。本当に良い人が多くて、住みやすくて素晴らしい場所だなと思います。

ーー皆さんからは、共通して「伊豆長岡の人はあたたかい」という言葉が聞けました。

平尾さん:私はまだ移住して4ヶ月ですが、最近知り合ったホテルの方も、歴史ガイドの方も、定期的に「最近どう?」と気にかけてくださいます。地域の方々がコミュニケーションを取ってくださるので、気持ちが内へ内へいかずに、本当にありがたいですね。

ーー実際に伊豆長岡に移住してみて感じた課題はありますか。

平尾さん:地域全体で、大きな課題意識を持つというよりは、立場によって考えが異なり、見据えているゴールも別なんですね。市という大きな組織なので当たり前とは思うのですが、こっちで動くとこっちが立たずみたいな状況になることがあり、そこは今まで経験した事がない課題感なので、少し大変ですんなりいかない部分だなと思います。

小山さん:自分も平尾さんと似たような気持ちですね。観光や消費を喚起するような会議で、若い女性が少ないと感じますね。しかし一方で、2年住んでみると、変わらない良さも実感するようになり、今は中間ぐらいの気持ちでいます。ミライ会議の今井さんの取り組みは本当にすばらしいと感じます。自分は外から来た人間で人望も実績もない状況ですが、中立な立場で話ができるようになれたら良いなと思います。

林さん:地域活性化は甘くないというのは痛感しています。現場が求めている部分、市役所の方々が求めている部分、僕自身が地域に貢献できる部分でバランスを取ることが難しいと感じています。それでも、伊豆の国市の皆さんは僕の意見や考えを理解してくださって、今このように自由に活動することができています。少しでも恩返しできるよう、必死に頑張りたいです。

新しいものをつくるのではなく、今あるものの価値を再定義することが重要

ーー現在の活動を通して、伊豆長岡にはどんな可能性があると思いますか?

平尾さん:伊豆長岡に住み、歴史や逸話を教えてもらった事で、観光資源がより魅力的になることがわかりました。もっともこの地域で有名なのは世界遺産の韮山反射炉だと思いますが、まだまだ詳しく魅力を伝えきれていません。たとえば、韮山反射炉を建設した坦庵公を挙げても、お台場の埋め立て地の建設や、西洋の造船技術を日本に取り入れるなど、日本の産業革命に大きく貢献した人物であり、注目すべき部分が豊富にあります。

韮山反射炉に限らず、伊豆長岡には多くの観光資源がありますが、残念ながら一目で価値が伝わるような文化財が残っていないこともあります。パンフレットだけの情報では、よほど歴史に関する知識がないと想像は膨らまないと思います。そこに関しては「伊豆の国歴史ガイドの会」のお力をお借りし、歴史的背景を説明してもらうことで、聞き手としては学びが深くなり、より観光資源を楽しんでもらえると思います。

小山さん:都内へのアクセスが良いことが強みだと思います。コロナ前からゲストハウスについて情報を集めていたのですが、近隣市町でもゲストハウスや民泊をはじめる人が増えてきているんですね。もっと、こういった人たちが増えれば宿泊環境も多様化され、新しい層の観光客も来やすくなると思います。新しい箱物のをつくるのではなく、例えば伊豆長岡の魅力や生活をわかりやすく伝えたり、温泉街の空き家を活用したりすれば、観光客の流れを増やすことはできるのかなと思います。

林さん:伊豆長岡が大河ドラマの舞台になったので、もう少し外部に対する情報発信が増えると良いのかなと思います。お散歩市のように、最初は観光客としてでも良いので、市外の方たちに来てもらい、地道に接触機会を増やして魅力を知ってもらうことが重要だと思います。僕たちのように移住者、外部の人間が増えてくれば、今よりももっと面白い、いろいろなアイデアが出てくると思います。

ーー地域おこし協力隊の任期は3年ですが、任期を終えた後、地域で取り組んでみたいことはありますか?

平尾さん:新型コロナの状況下において、観光業は厳しい状況です。待つのではなく、こちらから販売するルートがあっても良いのかなと。そこで、Webサイトを経由して、地域の名産を全国の方に販売できる仕組みを作れれば良いなと思っています。

小山さん:卒業後は、目標であるゲストハウス運営をします。もう卒業まで1年しかないので、伊豆の国市内に築50年の中古戸建を購入したので、オープンに向けて準備を進めています。

林さん:マネタイズも含め、地域情報を発信するWebサイトと「クラブいずのくにマガジン」を連動したメディアを作っていきたいと思います。また、伊豆の国市内には、優秀なクリエイターがたくさんいるので、その方たちと連携しながら、クリエティブなものを作りたいです。

ーー最後に伊豆長岡へ移住を考えている方や地域おこし協力隊を目指す方にメッセージをお願いします。

平尾さん:やりたいことと、求められることがマッチしてないと辛くなってしまうと思うので、この地で何がしたいのか、それに向けた目標や行動を明確にしておくと、ブレないと思います。

小山さん:地域おこし協力隊は3年間しかありません。1年目で月いくら収入をつくる、仕組みをつくるなど、明確な目標設定が大切だと思います。3年後は保証がなくなるので、2年目には、少額でも良いのでお金が入る仕組みを作れると良いですね。地方では意外な自身のスキルが、仕事になるケースもあるので、とにかく打ち手を増やして、成功体験を積み上げていきましょう。

林さん:時間は限られていますが、自分に何ができるかを考えながら、地域をリサーチすることは大事です。万が一、違っていても軌道修正できると思いますし。事前準備を忘れずにおこないましょう。