もともと、お母さんたちにベビーマッサージを教えていたという渡辺さん。このことをきっかけに、子育て支援に興味を持ち、子育てをサポートしてほしい方と、手伝いたい方をつなげる場として、3世代ふれあいサークル「coco」を設立しました。

現在は、3世代が交流できるコミュニティとして、5人の主要メンバー(1名は休会中)とともに、お散歩市に出店したり、休館中の「南山荘」の活用をしたりなど、さまざまな地域活動をされています。

本日は、3世代ふれあいサークルcocoの代表の渡辺さんに、cocoを立ち上げた経緯や、お散歩市に出店する経緯、伊豆長岡の魅力についてお話を伺いました。

ココブンコ 渡辺 末美さん
伊豆の国市と伊豆市を中心に展開している3世代ふれあいサークル「coco」。「coco」ではいろんな世代の女性たちが集まる時間を作っています。毎月第2日曜日、地域のにぎわいや出会いの場として南山荘で開催されるお散歩市に出店。毎月第3水曜日に簡易図書館的ブックカフェ「ココブンコ」としてブックトークを開催。

3世代ふれあいサークル「coco」を始めた経緯

ーー3世代ふれあいサークル「coco」を始めた経緯についてお聞きしても良いですか?

渡辺さん:もともと、お母さんたちにベビーマッサージを教える活動をしていたのですが、その過程で子育て支援に興味を持ちました。伊豆の国市の子育て支援の取り組みを調べるうちに、市議会議員さんや市役所の方とつながりました。お話を聞いてみると、子育てが大変で困っている方、その一方で子育てを手伝いたい方がいることを知りました。

だったら、子育てをサポートしてほしい方と、手伝いたい方をつなげる場を作ろう。そんな思いで始まったのが、3世代ふれあいサークル「coco」でした。最初の一年は私だけで運営していたのですが、金森が知人からのつながりでcocoのブログを見て、参加してくれることになりました。

ーー3世代ふれあいサークル「coco」では、どのような活動をしているのでしょうか?

渡辺さん:人をつなぐことから始まっているので、最初の2年くらいは、特に企画をせずに月1回集まって気さくに交流していました。

現在は、裁縫をしたい、何かを作りたいといった声があがったら、次年度はそれをチャレンジするという形で進めています。その辺は少人数の利点を活かして、臨機応変に運営しています。

ーーお散歩市には、どのような経緯で出店したのでしょうか?

渡辺さん:サークルに来られた方から、お手玉の作り方を教えてほしいといわれて、お手玉を作る企画が動きました。裁縫が得意な母の力を借りながら、お手玉づくりを進めていきました。温泉場の古浴衣を集めて、お手玉をつくるワークショップを開催すれば、地域にも還元できるかもということで、3年前からお散歩市に参加しました。始まりはお手玉でしたがその流れで南山荘さんのガーランドを浴衣で作る企画が動き、そこから昨年度は南山荘さん活用のお話を頂きました。

ーー今では、毎月第3水曜日に、簡易図書館的ブックカフェ「ココブンコ」も開催されているんですよね。

渡辺さん:そうです。私と金森が本好きなんです。選ぶ本のジャンルがまったく違うので、お互い刺激になります。南山荘さんの活用のお話をいただいたときに、無理なくできる方法として、「旅する古本in伊豆長岡温泉」を、お散歩市のときだけではなくて、私たちのサークルの日にも使えるようにしたらどうかなって。それなら、私たちも負担なくできるということで、ココブンコをはじめました。

一つひとつの縁を紡ぎ、場をはぐくむ

ーー渡辺さんのまわりにはたくさんの賛同者がいらっしゃると感じたのですが、地域との関わり方、仲間の増やし方でコツがあれば教えてください。

渡辺さん:子育て支援の関係から手話に興味を持った時期がありまして、半年くらい手話の講座に通ったんですね。そこでたまたま知り合った方が活動に賛同してくれたり、伊豆の国市には市独自の「家庭教育託児員」という資格があるのですが、その資格講座を受けたときに一緒だった方が仲間として入ってくれたり。いろいろな場に足を運んで出会った縁が、タイミングよくつながりました。

ーーさまざまな場所に足を運ぶことは大事ですよね。cocoの取り組みをして感じたことはありますか?

渡辺さん:おそらく子育ての当事者は、cocoのような情報を知らないかもしれません。日々の生活に必死で、興味がなければチョイスしないと思うんです。なかなか私たちが届けたい方々には発信できていないと、スタートしてから実感しました。

特に、若いママさんは受け取る情報も多いし、行動範囲も広いので、三島や沼津など他の地域に目が向いていて、たとえ市内で良い取り組みをしても、安くても、目を引くことをしない限りは、見てもらえないかなって思います。

行政と手を組む方法もあるのですが、なにぶん制約も増えてくるので難しい面もあります。とはいっても、自前では予算に限界もあります。昨年度、女性活躍推進助成金を申請したのですが、予算計上できるものが限られるんですね。人件費も出せないし、結局予算を使うために何かしなくては、となってしまって……。そうすると自分たちが苦しくなってくるんですよね。だから、今は自分たちが楽しみつつ、知ってくださる方、来てくださる方とできることを一つずつやっていくしかないと思っています。

住みやすい環境、あたたかい人が魅力

ーーあらためて、伊豆長岡温泉の魅力や課題について教えてください。

渡辺さん:温暖な気候で、平地も多く、都心にも近いし、住むには非常に良い場所だと思います。また、人もあたたかいですね。しかし、伊豆長岡を支える観光産業と市民がつながってないアンバランスさがあるのは否めませんね。

私も、伊豆長岡に住んでいますが、温泉や旅館にはほとんど行かなくて。伊豆長岡町だった頃は、毎月26日に町民が無料で温泉に入れる「お風呂の日」があったんですよ。

ーーその「お風呂の日」は、いつごろのお話なんですか?

渡辺さん:2005年までですね。全部の旅館ではないのですが、電話予約をすれば、決められた時間内で無料で入れたんです。市になって、いつの間にかなくなっていたので、残念だなと思って。ただ、知ってる人も少なかったと思います。そういう会話をした記憶もないし、お風呂で一緒になった人もいなかったので。

ーー伊豆の国市の発信が足りないというか、伝えきれてないってことですよね?

渡辺さん:そうですね。何度か議会報告会でも提言しているのですが、「お風呂の日」のように、市の観光資源を利用できる仕組みを作ったほうが良いと思っています。市民が観光に関わっていないから、地元の魅力に気付けないし、市外へ発信もできないですよね。子育てしている時って、本来、市政と一番近いところにいるはずなのに、よほど困っていなければ市政に興味は持ちません。私もそうでした。その時期の人たちを上手に市政に取り組むことができると良いのに、と思います。

また、伊豆長岡は観光地だから、観光に関連する職場しかないんですよね。旅館だと、土日に出勤するため、子育て中の方は仕事ができないですよね。観光施設に託児や放課後の預かりがあるなど、柔軟に働ける仕組みがあれば、SNSの発信が得意なママさんたちも伊豆長岡で働けて、今と状況は変わると思いますね。

私も市外の観光施設で一時働いていたのですが、観光施設で働くと、意外と自分が住む地域に興味を持てると実感しています。でも、伊豆の国市の方は、市の産業である観光にあまり興味がない方が多いかなと思います。私自身もまだまだその辺は否めなくて。市外の方におすすめを聞かれても答えられないです。

ーー今後、伊豆長岡にどのような場所があると、もっと街は魅力的になると思いますか?

渡辺さん:2つあって、1つ目が”この土地ならではの施設”ですね。勝手に思っていることですが、廃校を使っておもちゃ図書館を作るとか。伊豆の国市は元々3つの町だったので、すべての地区に同じものがないと不公平な気がするのもわかりますが、子育て世代の方は、ほとんどの方が車で来られるので、小さなものをいくつかではなく、1つ大きな箱を作り、そこに支援センターや図書館、おもちゃ図書館、児童館、さらには温泉施設(足湯とか手湯とか)などが集約されていると良いのかなと思います。利用は子育て世代に限らず、高齢者までの市民全体を考えています。
市民割引を作って、市外の方にも来ていただけるような施設を、車で来られない方には高齢者温泉施設で使われている市の送迎バスを活用するとか。この辺は自然も豊かなので、年配の方と一緒に自然のものでおもちゃを作り、多世代が触れ合う機会を作れると良いなと思います。

2つ目が、障害のあるお子さんとその家族が、安心して暮らせる街づくりですね。親御さんは、もし自分が先に死んでしまったら、この子をどうしたら良いのかと悩まれている方が多いんですね。だから、障害のあるお子さんが就けるお仕事や住む場所などを提供できる仕組みが必要と考えています。健常児を育てている親御さんより、障害のあるお子さんを育てている親御さんの方が、市政に興味を持って生活しています。先ほど話したように、自分ごととし今や未来に抱える問題がありますから。

でも、だからこそ、その方々が住みやすい街なら、結果、多くの市民が住みやすいのではないかと思います。

ーー昔だと、それこそ地域で見守る文化がありましたけど、核家族になって、地域のつながりは徐々に薄れていますよね。

渡辺さん:そうですね。今子育て中の方は、共働きしているケースが多いから、なかなか近所の人と接点をもつ機会を作りにくい側面はありますね。

ーーそういう状況で、cocoのようなコミュニティがあると、そこで交流が生まれて、防災や育児など、いざというときにも役立ちますね。

渡辺さん:そうですね。実際に顔を見なくても、グループLINEで「〇〇さんのところは大丈夫ですか」みたいなやり取りはできるので、もしかしたら安心感を持ってもらえるかもしれないです。つながっていれば、どこからか情報が入ってくるので、そういう役割がcocoでもできれば良いなと思いますね。

小さな取り組みも、集まれば地域を動かす"大きな力”となる

ーーcocoの活動を通して感じた、伊豆長岡の可能性について教えてください。

渡辺さん:続けることは大事だなと思っています。お散歩市も、最初は規模が小さく「どうせこの辺で開催しているフリーマーケットだよね」みたいに見られていたと思うんです。しかし、そんな散歩市も5周年を迎え、多くの方に知っていただけるようになりました。協力してくださる方も増えて、出店者のモチベーションも上がり、やりがいを見つけられるようになってきています。

私たちも、お散歩市も、出品してくれる方もそうだし、それぞれが細々と活動を続けていて、今はお散歩市を通して化学反応が起きています。こういったうねりというか、小さな波があちこちで増えれば、いろいろな場所でおもしろいことができたり、つながれたりして活動の波が広がるのかなと。ひとつ、市の明るい展望になるのかなと思っています。

ーーこの地域の方々にとってお散歩市がひとつのモデルケースになっているんですね。今、お散歩市が地域でどのような場として認識されているのか。5年間で起こった変化についてお聞きしても良いでしょうか?

渡辺さん:70〜80代で裁縫が得意な方は、「お散歩市なら出してみようかな」と思ってくださるもいらっしゃって。自分なりの生きがい、やりがいが出せる地域の場所になっていて、とても良い変化だなと思います。一緒に出店している私の母は、お客さまからアイデアをいただき、70代でのイベント出店デビューでしたが、楽しんでいるようです。

反面、5年継続していることもあり、少しマンネリ化している部分はあるかもしれません。やはり、お客さんのニーズに合った商品を出さないと、飽きられてしまうと思うんです。なかには、同じものを出して、毎年値下げしているケースもあります。買う側は安いものを買いたい心理が働くから、隣で同じような商品が100円、200円で売っていればそちらに流れてしまいますよね。お散歩市の価値を高めていくなら、出店者自体が意識を変える必要もあると思います。ただ、お散歩市は客層も年齢層が割と高めなので、お散歩市への出店やお出かけは、伊豆の国市民の健康寿命を延ばすことにも、つながっているかもしれませんね。

ーー最後に、cocoが目指す未来、今後の展望について教えてください。

渡辺さん:状況に応じてやり方を変えてはいますが、もともとcocoは、”つながり”をテーマに、ゆるく運営するのがコンセプトです。とにかくスタッフが無理をしない。私を含め主婦の多くは時間の自由はあるけど、自分のために使える時間はそんなに多くないんですね。その部分で無理をすると続けられなくなりますよね。だから、細く長くで良いかなと。居場所よりも、通りすがりにふらっと立ち寄れる休憩所、疲れたら腰かけるベンチ。たまたまそこで一緒になった人とつながる。そんな場所にできたら良いなと思います。

家族と同居している女性の多くは、そのときの状況や環境で自分のスタイルを変えなくてはならないことも多いです。だから悩みも行動も、いつも変化しています。誤解して欲しくないのは、それが嫌だとか、悪いとか、そういうことではないってことです。

たしかに、私も過去には意味不明な我慢をしていましたが(笑)今となってはそれが現在の私につながっているので、それもいわゆる”流れ”だったのかなと思います。そういう落とし込みがあったからこそ、cocoを立ち上げたわけだし、これまでcocoもそうやってやってきたつもりです。

そして今年度、またその時期がやってきました。来年度はまた原点に戻り、cocoを、ココブンコ抜きでも繋がれる時間にしようと思っています。ココブンコは私が個人的に継続していく予定です。